「弁別」について考えよう
「弁別(べんべつ)」ってなんだろう?
教材に関する本や資料に「弁別」という言葉がよく出てきます。
ここでは「弁別」とはどういうことなのか、どんな力が必要なのか考えていきたいと思います。
広辞苑で「弁別」という言葉を調べると
”物事の違いを見分けること。識別。”と書かれています。
これを弁別課題の目標に置き換えると
”違いに気付き、同じがわかる”ことだと考えます。
同じがわかるようになると、「分類」の力にもつながっていきます。
弁別の段階について、ここでは
1.物の違いに気付く
2.触ってわかる
3.見てわかる
という3つの段階にわけて考えていきます。
物の違いに気付く
物の違いに気付く最初の段階は
「それ」か「それ以外の物」かという見方です。
自分の好きな物や、パッと目についたものが「それ」にあたります。
「それ」以外は「それ以外の物」です。
たくさんある物の中から、自分の好きな物だけはすぐに見つけられること、大人でもよくあることだと思います。
好きな、気になった「それ」に手を伸ばすのは、物の違いに気付く最初の段階になります。
この段階では「弁別」に必要な
”物を見比べて、記憶する”という情報処理は十分でありません。
「見比べる」ではなく「見つける」段階です。
次の段階に向けて
弁別するものに「視線を向ける」力や
見たものが何であったか「記憶」する力
を意識していくと良いと思います。
触ってわかる
次の段階は、「触ってわかる」という段階になります。
ここでは形の弁別について考えていきます。
「物には形がある」ことに気付くためには、
見て形の違いに気付く”視覚”を頼りにする前に
触って形の違いに気付くための”触覚”や、
動かしてみて操作の違いに気付く”運動の手がかり”が大切になります。
”触覚”や”運動の手がかり”の具体例を見ていきます。
左の写真の積み木の弁別は、「まる」い球の積み木と「しかく」い立方体の積み木を、それぞれの形にあった入れ物に入れていく課題です。とがったところが何もない”球”と、角がある”立方体”は、触って違いを感じやすいです。触ってわかる段階では、穴の形を見て入れる場所を見分けているのではなく、入れてみて、”入った”、”入らなかったから違う方”という感覚を頼りに、弁別を行っています。
右の写真は穴の開いたリングと、丸いビー玉を弁別する課題です。穴の開いたリングを棒に「通す」、丸い球を穴に「入れる」という操作の違いが手がかりになります。リングは、穴に指が入るので、子供の興味を引きやすく、ビー玉との違いがわかりやすいです。また、弁別の操作が違うということ(運動の手がかり)も、それぞれの違いを感じやすくすることにつながります。
続いて、2種類の「おはじきとビー玉の弁別」課題について考えていきます。
どちらもおはじきとビー玉を弁別する課題です。左の写真は、同じタッパーのふたにそれぞれの形の穴をあけています。先ほどの積み木の弁別のように、触って違いに気付き、入れながら、”入るか入らないか”を感じて、弁別を行います。
右の写真では、おはじきとビー玉の入れ物自体を違うものにしています。これは入口弁別と言われる弁別で、左の写真の弁別よりも、入れる場所の違いに気付きやすくなります。
このように、触ってわかる段階の弁別課題にも、様々な工夫があります。
この段階で大切なのは、「見る」ことを促すことです。
触って違いを感じながら物を入れようとして、「あれ?入らない。」と感じた子供は、
「じゃぁこっちかな?」と視線をもう一方にうつすようになります。
この「あれ?」という感覚が、とても大切な気付きです。
この積み重ねが、まず「見る」、そして違いに気付く「見比べる」力となり
見てわかる段階へと発展していきます。
見てわかる
続いて、「見てわかる」段階です。
〇と△の形の弁別を例に、見ていきます。
〇を入れるときの「見る」というのは、
①はめるもの(丸い形)を確認する。
②はめる場所を確認する。(〇と△を見比べる)
③丸い方が同じだとわかり、はめる。
ということになります。
そして「見る」ためには
・見た形を認識し、記憶する力
・見比べた形を、把持していた記憶と比較して同じを判断する力
・同じを判断してねらったところに手を伸ばす力
が必要だといえます。
つまり「見てわかる」段階になったと判断するには、
上記の力がついているかを、見極めることが大切になります。
”試行錯誤をしながら、なんとなくできた”
というのは「見てわかる」段階ではありません。
子どもの視線を確認し、
「対象物を見て、見比べて、判断して形を入れようとしているか」
確認しながら課題に取り組むことが大切です。
まとめ
今回は、「弁別」について考えてきました。
述べてきたように「弁別」といっても様々な段階があり、
それにあわせて教材の工夫も色々になります。
大切なのは、”子供が今どの段階にいるのか”ということを考えながら
課題に取り組むことだと思います。
ここに挙げた教材は一例なので、この通りの教材を作る必要はありません。
目の前の子供に合わせて
促したい力をつけるために
「どうやったら子供がやってみようと思うかな?」と教材を工夫することが、
子供の力につながっていくと思います。