「運動の始点と終点」「目と手の協応」について考える~スライディングおはじきを通して~
Instagram(No.33)で紹介している、”スライディングおはじき”という教材について、「運動の始点と終点」「目と手の協応」という視点で解説していきます。
”スライディングおはじき”ってどんな課題?
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写真のような教材を、”スライディングおはじき”として作成しました。
左端の赤いシールの上におはじきをセットし、右端に空いた穴の部分まで、おはじきを指でスライディングさせて落としていく課題です。
※土台に使っているタッパーはダイソーで購入したパスタ用のタッパーです。
※この”スライディングおはじき”は、向きを縦にして使うこともできます。
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![](https://i0.wp.com/kyozainoki.com/wp-content/uploads/2023/12/114248502_188405132669284_1896711139085306279_n.jpg?resize=1024%2C1024&ssl=1)
”スライディングおはじき”の大きな目的は、
●運動の始点と終点を意識する事
●目と手の協応を促すこと
です。
以下、二つの視点で順番に考えていきたいと思います。
運動の始点と終点とは?
運動や様々な活動について考えるとき、そこには必ず始まりと終わりがあります。
始まりが始点、終わりが終点ということになります。
この始点と終点の理解が曖昧であると、以下のような様子が見られることがあります。
・始まったはいいけど、終わりがわからずその活動をいつやめていいのかわからなくてずっと同じ活動を繰り返している。
・物を出したり落としたりをして遊んでいる。(その遊びの終わりの意識が低いため、始点ばかりの遊びになっている)
・挨拶をせずに授業が始まると、授業の活動だということがわからずにパニックになる。(”挨拶”という形の始点しか受け入れられない)
・始まったこと終わったことがわからずに、今何をする時間かわからない。(活動の始点・終点の理解が不十分)
・終わったら〇〇ができるという見通しをもちにくい。(活動の始点・終点の理解が不十分)
始点・終点の理解が曖昧なことが、日常生活での不安につながる場面もよく見られます。
また、スケジュールが理解できるということは、その活動が始まって終わったことがわかり、また次の活動が始まるということがわかるということでもあります。
日常生活でパニックになることがよくある場合、本人自身の始点・終点の理解が曖昧であったり、環境設定として始点・終点の示し方がわかりにくかったりすることがあります。
学習課題や日々の活動の中で、始点・終点を見直していくことで改善されることもあるかもしれません。
今回紹介した”スライディングおはじき”という課題では、赤いシールの所が始点、右側の四角い穴(おはじきが中に落ちるようになっています)が終点になります。
![](https://i0.wp.com/kyozainoki.com/wp-content/uploads/2023/12/33.jpg?resize=300%2C300&ssl=1)
始点への意識が高まるよう赤いシールで示し、終点は”落ちる”ということで一つの行為が終わることへの意識を向けやすくしています。
このように提示する教材の始点・終点へ意識を向ける工夫をして、課題を通して運動の始点と終点への理解を促していくことが大切になります。
目と手の協応とは?
続いて、「目と手の協応」を促すという視点で考えていきます。
目と手の協応とは、「目で見たところに意図的に手を動かす」ということです。
この”スライディングおはじき”という教材での目と手の協応とは、
・赤いシールの上のおはじきに手を持っていき(始点)
・穴の位置を確認して(終点の確認)
・穴に向かって手を動かし(終点に向けて運動を行う)
・おはじきを穴に入れる(終点)
という動きが意図的にできるということになります。
「目と手の協応」のためには、「始点と終点の理解」も必要になります。
この一連の動きの中のどこかに課題があると、おはじきを手に取って口にくわえたり、おはじきで違う遊びを始めたりすることもあります。
始点と終点の位置を確認できても、手を思うように動かせない場合は、終点の穴に入れることが難しいこともあります。
終点への意識が途中でなくなると、穴におはじきを入れずにまたスタートの位置に戻って、おはじきを行ったり来たりさせて遊ぶことを楽しむこともあります。
子どもがどの段階でつまずいているのか知るためにも、子どもの視線を確認しながら課題に取り組むことがとても大切になります。
つまずきがある場合には、必要に応じて子どもと一緒に始点終点の確認を行ったり、言葉をつけたり(「スー、ポトッ」等)、おはじきを動かすラインがずれないように枠をつけたりといった工夫が必要になります。
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※麻痺や不随意運動のために意図的に動かすことが難しい場合は、教材自体やどのような方法で目と手の協応を促していくのかを見直していく必要があります。
似たような目的の教材の紹介
”スライディングおはじき”と似たような目的で作った教材を紹介していきます。
↑ こちらは、ゴルフボールを持ち手にしたスライディングボードです。
・枠がある(運動の方向がずれない)
・持ち手がゴルフボールになっているため、指先の細かい動きが難しい場合でも操作がしやすい
というのがポイントです。
必要に応じて、もう少し始点・終点に意識を向けやすい工夫をしても良いかもしれません。
↑ こちらはダイソーのウッドウォールバーを利用した、スライディングタイルです。
・枠がある(運動の方向がずれない)
・タイルが枠より低い位置にあるので、指先での操作が必要になる
・箱の上で操作できるようにしているので、タイルが落ちたら終わりという終点がわかりやすい
ことがポイントです。
↑ これはボビンを滑らせていくスライディングボビンです。
・運動が二方向以上ある(写真では横と縦)
・枠がある(運動の方向を誘導しやすい)
・ゴールにケースを置いているので、落ちたら終わりという終点がわかりやすい
というのがポイントです。
運動の方向が二方向以上になるということは、終点の意識が弱いと意図的に終点へ向かって動かすことが難しくなるということです。
この教材では一方向からスタートし、最終的には迷路のように多方向に運動を誘導できるよう並び替えられるようにしています。
同じ教材で難易度を変えていけるということも、大切なポイントです。
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![](https://i0.wp.com/kyozainoki.com/wp-content/uploads/2023/12/472-4.jpg?resize=1024%2C1024&ssl=1)
↑ これはたこ焼き等を作るときに使う油引きを利用した、スライディングボックスです。
・運動が二方向ある(この教材は横と縦)
・枠がある(運動の方向を誘導しやすい)
・道具を操作する
というのがポイントです。
これまで紹介した教材との一番の違いは、自分の手ではなくて道具を使って操作するということです。
似たような目的をもちながら、少し変化を加えていくことで同じような目的の課題に飽きずに取り組めるようになります。
今回は4つの教材を、似たような教材として紹介しました。
●運動の始点と終点を意識する事
●目と手の協応を促すこと
という基本的な目的は変わりませんが、指先での操作を促すのか手全体での操作を促すのか道具を使った操作を促すのか、運動の方向が誘導されているのか自分で決めるのか、運動は何方向あるのか、始点終点のわかりやすさはどうなのかといった変化で、難易度に変化をつけることができます。
単純な課題は飽きやすく、目的を達成していなくても飽きることで集中して取り組めなくなってしまうこともあります。
何種類かの課題に取り組みながら、目的を達成できるような教材の工夫をしていくことも大切になります。
まとめ
今回は、”スライディングおはじき”という教材を通して
「運動の始点と終点」
「目と手の協応」
という二つの視点について考えていきました。
一見単純に見える課題ですが、この”始点と終点の理解”、”目と手の協応”というところでつまずいて困っている子どもたちは多くいます。
そしてこの二つの視点は、今後課題がどんどんレベルアップしていった時にも、必ず必要な視点になります。
シンプルな課題であるからこそ、丁寧に取り組み、目的を達成すること目指していきたいと思います。
参考文献
〇宇佐川浩(2007)感覚と運動の高次化からみた子ども理解 学苑社
〇高橋浩,藤川良純,西端律子,太田和志,鴨谷真知子(2017)誰でも使える教材ボックス 学苑社