カードでの要求~伝えるってどういうこと?~

今回は、カードでの要求をどのようにして始めたらいいのか、そもそも”伝えるってどういうこと?”というテーマで考えていきます。

カードでの要求ってどんなもの?

言葉が出ない子どもにとって、自分の想いを伝える手段はどのようなものがあるでしょうか。

ジェスチャー、表情、手を引っ張る、視線…等、自らの身体を使って伝える方法があります。

しかし、それだけでは正確に自分の想いが伝わらないことも多く、子どもも大人もストレスになってしまうことがあるのではないかと思います。

そんなときにカードや文字があることで、自分の想いがより正確に伝えられることもあります。

例えば、ほしいもの、遊びたいことを写真やイラストのカードから選択する。

自分の行きたいところを、写真やイラストのカードから選択する。

〇か×のカードを選んで伝える。

嫌だ、やめてっといった自分の気持ちを伝える。

文字を指差して伝える…等。
(昨日どこに行ったの?と声をかけると、あいうえお表を指差して「いおん」と教えてくれた子もいました)

写真やイラスト、文字の入ったカードや、文字盤があることで、自分の想いを伝えられる幅が広がっていくので、子どもの実態に応じて検討していくと良いと思います😊

カード導入時に大切すること

続いて、具体的なカードの導入方法について考えていきます。

カードでの要求方法を導入するときに一番大切にすること、

それは「本人が伝えたいこと」から始めるということです。

カードの要求を試してみたけどがうまくいかない…😢

そんな悩みを保護者や先生から聞くことがよくあります。

その様子を聞くと、

「本人が伝えたいこと」ではなく、「大人が伝えてほしいと思っていること」から始めていることが多くあります。

カードでの要求を始めて行う子どもにとっては、”カードを渡して伝えた”ことに意味づけがされなければ、カードを使うことの良さはわかりません。

カードを渡したから、いいことがあった!好きなことができた!ほしいものがもらえた!

だから、カードを渡して伝えればいいんだ!ということがわかってきます。

「本人が伝えたいことは何だろう?」

この視点が何よりも大切です。

できれば、嫌なことよりも”好きなこと”や”やりたいこと”等、前向きな気持ちになれるものから始めると良いと思います。

カードを始めて使うときには、可能ならば二人の大人がいると良いです。
一人は①カードを受け取る人、一人は②カードを渡すことを促す人です。

環境設定として、要求するものは子どもが自分で出せないところに片付けておく子どもが手の届くところにカードを置いておくようにします。

・まずは、見本として②の大人が、①の大人にカードを渡して、要求するものを出してもらえるという見本を示します。
・続いて、②の大人がカードの方を指差し等して、子どもがカードを手に取るように促します。
(指差しで難しい場合は、②の大人がカードをとって子どもに渡しても大丈夫です)
②の大人は、子どもが手に取ったカードを①の大人に渡すように促します。
(この時①の大人が子どもに背中を向けていれば、トントンと叩いて呼びかけることを促します)
①の大人は、カードを受け取ったら、要求されたものを子どもに渡します。
(この時、①の大人は「なあに?」「〇〇がほしいんだね」「わかった」等、わかりやすいリアクションをすると良いと思います)

これを何回か繰り返すことで、「カードを渡せば要求したものがもらえる」ということを理解していきます。

実際の場面では、一人の子どもに対して二人の大人がつくことは難しい場面も多いと思いますが、できる限り二人の大人が協力した方が、導入はスムーズにいくことが多いと感じます。

また、カードを導入後、カードでのコミュニケーションが定着するまで、カードを渡されたら”どんな場面でも要求にこたえる”ことが大切です。

「今日はダメ」「今は忙しいから無理」等、カードを渡しても要求が通るときと通らない時があれば、カードの要求は定着しません。
要求を聞けない状況の時には、カードを出さない見えないように隠しておく等の配慮が必要になります。
カードがあるときとないときがあるということが子どもにも定着すれば、”今できること”という見通しにもつながっていきます。

伝えたい気持ちを育てる

”伝える”ということを考えるとき、次の二つのことが必要なことだと考えています。

・伝えたいことがあること

・伝えたい人がいること

伝えたいことがあること

まず、その子に「伝えたい」ことがあることが何よりも大切だと思います。

例えば、大人は「トイレに行きたいと伝えてほしい」と思っていても、
子どもは「小さい頃からおむつの中にするもの」と思っていれば、そもそも「トイレに行きたい」という気持ちがありません

そんな時にトイレカードを用意しても、そのカードを使うことは難しいです。
「トイレに行きたい」を伝えてほしいなら、「トイレに行きたい」という気持ちを育てること、それが何よりも大切なことになります。
感覚的な不快感を感じていない場合は、トイレに行ったら楽しいことがある、トイレに行ったらごほうびがもらえる、そんな支援があってもいいかもしれません。
「トイレに行きたい」という気持ちを育てることが、伝えることにつながっていきます。

また、「伝えたい」と思うような経験をすることも大切なことです。
心の底から「楽しかった」「がんばった」、そんな経験をしたら、私たちも誰かに伝えたくなると思います。
子どもはとても素直で正直です。
形式的に何を食べましたか?といったやりとりを繰り返すよりも、伝えたくなるような経験をたくさんすることの方が、「伝えたい」気持ちを育てることにつながっていくと思います。

伝えたい人がいること

少し忘れがちな視点ですが、伝えたい人がいること、というのも大事な視点だと思います。

私たちは、何か伝えたいことがあったときに「誰に」伝えたいと思うでしょうか?

身近でいつも助けてくれる人、安心できる人、自分を応援してくれる人…なんとなく自分がほっとできるような自分の味方だと感じるような、そんな相手に伝えたいと思うことが多いのではないでしょうか。

逆に、いつも自分に注意をする人自分の話を聞いてくれない人にらみつけるように見てくる人に、何かを伝えたいとはあまり思わないのではないと思います。

子どもは大人以上に正直です。
伝えたいと思わない人に、自分から積極的に関わろうとしません

だからこそ、子どもと関わる私たちは、子どもにとって「伝えたい人」になることが大切だと思っています。

「ねぇねぇ、〇〇できたよ」「楽しかった」「頑張ったよ」子どもが感じた気持ちを、
「きいてきいて!」と言いたくなるような関りを普段からしていることが、”伝える”ことにつながっていくのだと思います。

伝えたいことがあり、伝えたい人がいること、

これが”伝える”ことを、育てていってくれます。

子どもが「伝えてくれない」と思うときには、この2点を振り返ってみることも、大切なのではないかと思います。

カード要求の事例紹介

最後に、カード要求を導入した時の事例を2つ紹介します。

「伝えたいこと」は何?を考え直したAくんの事例

Aくん、小学校1年生、ひらがなは読めるけど、発語のない児童です。

Aくんは、カードを渡したら好きなおもちゃ等をもらえる、好きな場所を選択する等、カードの使い方はわかっていました。

カードの幅を広げていこうと思い、給食時におかわりや食材を切ってほしいことを伝えられるカードを作りました。

↑こんな感じのカードです。

最初に提示したのはAくんに提示したのは、「おかわりください」「もういりません」「きってください」の3種類のカード。

提示したものの、全くカードを使う様子はなく、カードを見せてもあまり興味なさそうな様子です。

どうしたらいいかなぁ、食事の時にカードは必要ないのかなぁ、、
そんな悩みを抱えながら
「食事のときに自分が伝えたい気持ちってなんだろう?」と考え直してみました。

自分がご飯を食べてたら、どんなことを思うかな…
そう考えた時に、一番食事中に伝えたいのは「おいしい」っていう気持ちじゃないかなぁと。
食事中に、「〇〇して」と思うことより、ただただ「おいしい」と思うことの方が多い。
このご飯を食べて「おいしい」と思った気持ち、いろんな要求よりも「おいしい」気持ちを共有したいな。
そう思ったので、上の写真にある「おいしい」カードを作って提示してみました。

その日「おいしい」カードを見つけたAくん。

給食を1口食べると、すぐに「おいしい」カードを手に取り、嬉しそうに指差してくれました♪
「うん、おいしいね」と返事を返すととてもうれしそう😊
ちょっと食べてはカードを手に取って「おいしい」ということを何度も伝えてくれました。

このAくんの事例は、カード要求を導入した中でも特に印象に残っているエピソードです。

子どもにとって伝えたいことは、「〇〇してください」という要求ばかりではない
ただその時の「おいしい」「楽しい」といった気持ちを共有したい
カードを使うと”要求”に視点が向きがちですが、”気持ち”の視点を忘れてはいけないことを実感しました。

その後、Aくんは「すっぱい」「あまい」といったカードも使いながら、必要に応じて要求のカードも使ってくれるようになりました。

また、Aくんがカードを使って「おいしい」を伝えてくれる様子を見ていた周りの児童も、Aくん用のカードを手に取って、「Aくん、おいしいね」とカードを見せながら伝えるような場面も見られるようになりました。
友だちとのコミュニケーションにもつながり、互いに嬉しそうな表情が見えました😊

この場面・この時に伝えたい気持ちは何だろう?そんなことを考えることの大切さを感じさせてくれた事例です。

カード要求の良さと難しさを感じたBくんの事例

続いて紹介するのはBくん、小学6年生、知的障害があり、発語はなく言語指示理解も曖昧です。
「何か本人の要求を伝えてほしい」、保護者や関わる大人たちの願いですが、なかなかそういった表現はみられていません。
これまでカード要求も何度かチャレンジしてきたようでしたが、うまくいかず…と聞いていました。

要求には色々は方法がありますが、まずはカードの要求をやってみようと思い、Bくんの伝えたいことはなんだろう?について考えました。

嫌な時には泣いたり、爪をたてたりといった行動がありましたが、”好きな活動”がわかりにくいなぁと感じるBくん。

その中でクレーンでの要求が見られた、「CDデッキのスイッチを押してほしい」を、要求として考えることにしました。

始めはカードの意味がわからずいらだつ場面もありましたが、何度か繰り返すうちに”カードを渡せばCDの音楽が聴ける”ということはわかったようで、自らカードをもってきて渡してくれるようになりました。

その後、安定してカードを渡せるようになってきたので、レベルアップもかねて、二つの写真カード(CDデッキと別のおもちゃ)を用意しました。

するとBくん、CDの写真を選ぶ時もありましたが、もう1枚のカードを選んで持ってきて、CDが聴けずに怒るということもありました。

Bくんの場合、用意した写真を見分ける力、写真と具体物を一致させる力が足りない面もあったのだと思います。
2種類の中からカードを選んでいるというよりも、カードを渡せば”音楽が聴ける”という理解でした。
違うカードを選んで持ってきて、音楽が聴けなかったらもう一つのカードを持ってくるというようにはなりましたが、”カードを選ぶ”ということは難しいままで終わってしまいました。

Bくんの事例では、カードを渡して音楽が聴けるということを伝えることができた!という反面それ以上に伝えたいことを広げられなかったという反省も残っています。

発達段階によっては、写真を見分けて選ぶことはとても難しいことになります。

その場合は、個別の活動や自立活動の中で、”みる”力を高めていくような取り組みを行う必要があります。

また、カードにこだわることなく、具体物(例えば帽子を渡したら遊具で遊べる、楽器を渡したら音楽が聴ける等)での要求の方がわかりやすいこともあります。

多様な視点で、その子にとって”伝える”ってどういうこと?と考える必要があると感じました。

まとめ

今回は、カード要求について考える中で「伝えるってどういうこと?」ということを考えていきました。

大切なのは「どんなことを伝えたいかな?」と、その子ども目線で考えることだと思います。

伝えたいことは要求だけではありません

「楽しい」「嬉しい」「かなしい」「疲れた」…
いろんな気持ちを共有したいその気持ちを大切にしてほしいと思います。

「伝えたい」そんな気持ちを育むこと、

そして支援者や身近な大人はその子にとって伝えたい人になること

それが”伝える”力につながっていくと思います😊

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