プラスチックコップで色の弁別
きょうざいのきInstagram【No.91】で紹介している、「プラスチックコップで色の弁別」について、”なぜ色の弁別課題をプラスチックコップで行うのか”という視点で解説していきたいと思います。
教材について
この教材は、色の弁別(同じ色、違う色)の学習を、同じ色のコップを重ねるという方法で取り組むものです。
作り方は簡単!ダンボールに、土台となる紙コップをボンドで固定するだけでで完成です。
固定した紙コップの上に、違う色のコップを重ねて見本として示して使います。
(見本の色のコップを変えることで、パターン化せずに色々な色で取り組むことができます。)
※Instagramでは2色の色の弁別として取り組んでいますが、できるようになったら色の数を増やしていってもよいです。
色について学習する課題は色々あります。
なぜ今回プラスチックコップを使ったのか、以下の三つの視点と、課題となる点について考えていきたいと思います。
①終点をつくる
②何回か繰り返せる
③色の違いの理解が難しい場合には、重ねる課題としてできたことにできる
★課題となる点
①終点をつくる
何か課題を作るときに、”終わりをわかりやすくする”という視点はとても大切です。
特に、初期学習の段階の子にとっては、課題の”終わり”がわかならいと、せっかく取り組んだ課題がよくわからない時間になってしまうこともあります。
では、終点をつくるというのはどういうことでしょうか?
このコップの色の弁別課題では、コップを重ねて”コップがはまった”というのが終点になります。
はまったという感覚を感じることで、”コップを重ねるという動作の終わり”を感じることができます。
また、あらかじめ取り組むコップの数を提示しておいたり、あと3つ等コップの残りの数を示したりすることで、”課題の終わり”もわかりやすくなります。
言語指示では見通しがもちにくい場合も、視覚的に「あとこれくらいで終わる」とわかることで、課題に落ち着いて取り組めるようになることもあります。
終わりが自分でわかることは、課題が「できた」という達成感も自分で感じられることにつながっていきます。
教材の中で終わりを意識するには、教材から何か手ごたえが感じられることが大切です。
例えば”なくなる”、”はまる”等です。
”なくなる”のわかりやすい例は、プットイン課題です。
プットイン課題は、手の中にあったものが、入れることでなくなります。
”なくなったらおわり”となるので、終わりがわかりやすいです。
”はまる”の例を、過去の投稿【No.416】マグネットで大小弁別を例に考えていきたいと思います。
この課題は、ホワイトボードに大きさの違うマグネットをはることで、大きさの違いを学習していく課題です。
プラダンで型を作ることで、マグネットがホワイトボードにくっつくだけでなく、”はまる”という感覚があるることで、終わりがわかりやすくなります。
写真右のように、応用編として紙の型や枠にのせて大きさを合わせることもできますが、”はまる”という手ごたえがなくなる分、難易度があがります。
上の写真のような色の分類課題では、つまんでいるものを同じ色の所に”置く”ことで色の分類をしていきます。
”置く”という動作は、手ごたえが少なめです。
また、置いたものがそこにあり続けるので、置いた後に再びその置いたものをつまむことができます。
このように、できた課題をすぐに元の状態に戻せるような課題は、終わりがわかりにくいので、初期の色の学習としては、難しいかもしれません。
今回、”終点をつくる”例をいくつか紹介しましたが、”終わり”がわかりやすいことは、教材としてとても大切なことです。
普段使っている教材も、”終わり”がわかるようにちょっと工夫をすることで、取り組みやすさや学習効果が変わってきます。
「どうしたらこの教材の”終わり”がわかりやすくなるかな?」そんな視点で教材を見直していくと、新たな発見があるかもしれません😊
②何回か繰り返せる
次は、「何回か繰り返せる」とはどういうことか、考えていきたいと思います。
初期の色の弁別課題を考えるとき、写真のような、”同じ色の所に同じ色のものをはめる”という課題はよくあります。
こういった課題は、色の弁別に取り組める回数が少ないことが多いです。
(上の写真では各色1回ずつ、2色で取り組んだとしても各色2回ずつで課題が終わるということです)
そのため、”たまたま正解した”ということや、”パターン化した答えを覚えてしまった”という風になってしまうこともあります。
しかし、今回解説しているコップでの色の弁別課題であれば、コップの数によって回数を調整することができます。
大人が見本として何回か示しても、コップの数はたくさん用意しておけば、子どもが取り組む回数は減りません。
課題に取り組み始めた初期のころには、指差しや、正しい答えの色のコップを目の前に出すことで正解を誘導しながら同じ色のコップを重ねていきます。誘導されながら同じ色の所に重ねていくことを繰り返すことで、”同じ色を重ねていく”という課題の意図を理解していくことができます。
また、課題ができるようになってきたころには、途中で提示する左右を逆にすることで、本当に”同じ色”のところに重ねることができているのか確認することもできます。何回か繰り返し取り組める課題だからこそ、途中で変化をつけながら学習していくことができます。
この教材で色の弁別ができるということは、どのような向きでも、途中で向きが変わっても、たくさんのコップを繰り返しても、同じ色の方に重ねられるということです。
”繰り返す”ことで課題の意図を理解し、”繰り返す”ことで本当に色を理解しているのか確認することができ、”繰り返せる”から課題に変化をつけることもできるようになります。
③色の違いの理解が難しい場合に、重ねる課題としてできたことにできる
子どもが新しい課題に取り組むとき、”間違えさせない”ことは大切なことだと思っています。
”できなかった”、”失敗した”という気持ちが残ると、その後同じ課題に取り組むことにすごく抵抗を示す場合も多くあります。
この課題は、同じ色と違う色に気付いて同じ色のコップを重ねていくということですが、指差しや正解に誘導しても、同じ色にコップを重ねられないこともあります。
また、誘導されることをすごく嫌がることもあります。
そういったときに、重ねたコップを戻して”やり直し”と繰り返しても、子どものやる気はなくなっていくばかりです。
子どもに提示した課題は、”できた”で終わることが基本です。
新しい課題を提示した時に、想定していたより間違えそう、反応が悪そうと思ったら、子どもが「もうやりたくない」という気持ちになる前に、”できた”という状況を作って課題を終わらせた方が学習効果は高まります。
この課題は、”コップを重ねる”ということで、子どもが手ごたえを感じやすいです。
なのでこの課題は”色の違いに気付く”ではなく、”コップを重ねる”という課題だったことにして、色の違いを気にせず、用意していたコップを重ねてもらいます。
そして、最後は「全部重ねられたね、できたね」と、そこで課題を終わりにします。
その課題ができなかったり、誘導に応じなかったりすることには、必ず理由があります。
それを無理やり正解に導こうとしても、”嫌な課題”というイメージだけ残ってしまうかもしれません。
理由はしっかりと探らないといけませんが、課題はテンポよく取り組むことも大切です。
課題は、本人に嫌なイメージがつく前に終わる、次回その理由を修正して取り組む、と割りきることも必要なことだと思います。
新しく取り組む課題が、できなくても「できた」ことにできるような視点をもっておくことで、教材の工夫や提示の仕方が生まれてくると思います☺
課題となる点
続いて、この教材の課題となる点について考えたいと思います。
コップを持つということは、不器用さがあったり、力の調整が難しい子にとっては、とても難しいことです。
コップを持つということに一生懸命になる子にとっては、コップを持ちながら色の違いを考えるということはかなり難易度が高いです。
そういった場合には、力の調整があまりなくても持てるような、重さがあったり、形が変わらなかったりするもので色の弁別課題に取り組む方がいいかもしれません。
また、このプラスチックコップは(ダイソーで購入)、握ったりつぶしたりすることで音が鳴ります。
そういった音が出ることが面白くなり、コップで遊んでしまうこともあるかもしれません。
さらに、握ったりつぶしたりしていると、コップが割れて割けてしまうことがあります。
怪我につながる可能性もあるので、”コップで遊ぶ”ことが楽しくなってしまう子には、向いていないかもしれません。
色付き紙コップを使ってもよいのですが、薄い色が多くて色の違いがわかりにくいことと、コップを口に入れたり落としたりしたときに洗って消毒ができるよう、プラスチックのコップを使っています。
こういった課題となる点も意識しながら、その子にとってこの教材で学習ができるかどうか考えていくと良いのではないかと思います。
まとめ
今回は、”なぜ色の弁別課題をプラスチックコップで行うのか”という視点で考えていきました。
このプラスチックコップの課題を考えたのは、特別支援学校での勤務1年目のときに子どもに提示した色の弁別課題が全くうまくいかなかったことがきっかけです。
その時作った教材は、”ホワイトボードに2色の色紙を貼り、同じ色のマグネットを貼る”というものでした。
実際に子どもに提示すると、反応がとても悪く(笑)、全く色の理解にはつながりませんでした。
「なんで取り組んでくれないんだろう?」
そこから”終点をわかりやすくするとよい”と教えてもらって、はまるような型を作って、
そうしているうちに「何回か繰り返した方が理解につながるんじゃないかな、何か繰り返してできるものはないかな?」と思うようになって、
「コップを重ねるとたくさん繰り返せるんじゃないのかな?」と思ってまずは紙コップだけ提示してみて、
「土台が安定している方がいいかな?」と思うようになって土台を固定するようになって…
そんな試行錯誤から、この教材に変化していきました。
マグネットを貼ることに反応が悪かった子も、最初はコップを重ねる課題として取り組み、最終的にはコップの色の違いをしっかり見て同じ色に重ねられるようになりました。
そして「できたよ」とうれしそうな表情でこちらを見てくれました。
その表情を見てすごく嬉しくなったことを今でも覚えています。
教材に正解はないと思います。
目の前の子どもと、その反応を見て、試行錯誤しながら色々な形で変化していくことが大切なことだと思います。
「なぜこの課題が難しいのかな?」
「どうしたらできるようになるのかな?」
この視点をもち続けることが大事なことだと思います。
今回は三つの視点と課題となる点で教材を解説してみました。
それぞれの教材に、”なぜこの教材なのか”という視点があると思います。
そういったことを考えることで、また視点が広がっていくと思うので、身近な教材を手にとってぜひ考えてみてください😊